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最高裁判所第二小法廷 平成元年(あ)1042号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

一  弁護人富田均の判例違反の上告趣意について

原判決は、被告人が、食用に供する目的で獣畜をと殺、解体することを許されていないへい獣処理場においてと殺、解体された牛の肉約一一トン三〇五キログラムを食肉販売業者に代金七四四万一五五〇円で食品として販売したとの事実について、と畜場法上適法にと殺、解体された獣畜でない死亡獣畜は、食品衛生法五条一項にいう省令をもって定める疾病にかかり又はその疑いがある獣畜と判定されたものを除き、同条項の「へい死した獣畜」に当たるとして被告人を有罪としているところ、所論引用の大阪高等裁判所昭和二六年(う)第一〇〇四号同年一一月一九日判決(高刑集四巻一一号一四九七頁)は、と畜場法によって廃止された屠場法の手続に従わないで、食用に供する目的でと殺、解体された獣畜につき、食品衛生法五条一項の「へい死した獣畜」に当たらないとしているから、原判決は、所論引用の右判例と相反する判断をしたというべきである。

しかしながら、食品衛生法が立法された経緯、趣旨、獣畜の肉等を食品として販売することに対する法的規制の内容、ことに、同法が飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的とし、他方、同法五条一項により規制されている食用に供する獣畜の処理に関しては、と畜場法により、獣畜をと殺し、解体し、更には解体された肉等をと畜場から搬出する前には、同法所定のと畜検査員による検査を経ることが義務付けられているなど獣畜の処理が衛生的に行われることが図られていることに照らすと、本件のように、と畜場法の手続に従って適法にと殺、解体されていない死亡獣畜は食品衛生法五条一項にいう「へい死した獣畜」に当たると解するのが相当である。よって、刑訴法四一〇条二項により所論引用の判例を変更して原判決を維持することにする。したがって、判例違反をいう所論は、結局、原判決破棄の理由にならない。

二  同弁護人のその余の上告趣意について

所論のうち、憲法三一条違反をいう点の実質は、すべて右「へい死した獣畜」の解釈を争う単なる法令違反の主張であり、その余の点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

三  よって、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島 昭 裁判官 奥野久之 裁判官 中島敏次郎)

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